ぎゅうと、抱きしめられた。

「そうか。でも僕は結婚した。君と別れた時の喪失感で一年は辛かったが、乗り越えられて、前を向いて歩こうと決めた。そしてとても素晴らしい女性に出会えた。今は妻がいなければ生きていけないと思うくらい愛している。女性に惚れて、こんなに愛する事が出来るのだと感じている。もう君とやり直す事は出来ない。僕達はあの時に終わった。君が僕から離れた時に」

「私が側にいなかったからでしょう? 帰って来たの。あなたの所へ」

「違う。僕は君の事を愛していない。今の妻を心から愛している」

別れに軽くハグをした時、ゆりと目が合った。ゆりは僕を見て背を向けた。驚きと恐怖感で全身に電気が走った。

「悪いがもう会わない。さようなら」

急いでゆりを追った。

「待って!」

手をようやく掴んだ。僕を見ない。

「前に一人だけ、好きで別れた女性がいたと話をしたことがあるだろう。その人がアメリカから帰国したらしい。本当に偶然に、偶然に今、会った。ちゃんとはっきり話した。愛する妻がいる、君は心にもいないと」

それでも、僕を見ない。すごい不安感と恐怖感。

「僕は君が居なければ生きていけない。わかるだろう。君以外愛せない」

ようやく僕を見た。思わず強く抱きしめてキスをした。冷静になった時、人がたくさん行き来して見ていた。顔から火が出そうだった。後ろに上村紀子がいた。

次回更新は12月3日(水)、22時の予定です。

 

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