人は、自らの五感を通して、外界の状態を脳の内部に情報として取り入れます。これが下等動物なら、脳の内部に取り入れた情報に対して単純に反応するだけです。
それに対して人は“自意識”というものを持ち合わせているため、ただ反応するだけではありません。得た情報を充分に理解し、自分なりに解釈し、そのうえで自分の行動につなげようとします。
しかし、そんな情報処理の途中で齟齬が生じることが あるのです。そうです。この齟齬こそがヒューマンエラーの種となるのです。言い換えれば、ヒューマンエラー防止対策はこの“齟齬”の原因となる因子を無くすことだと言えます。
人間の情報処理の仕組みを解明するための研究を認知科学と言います。その認知科学では、情報処理の工程をより理解しやすいように“人間の情報処理モデル”というものを用います。
齟齬を無くす検討を行う時にも、この人間の情報処理モデルは非常に有効です。その理由は、情報処理モデルの何処でどのような齟齬が発生しやすいのか、各工程の役割を念頭に置いて、それぞれの工程に見合った適切な対策を検討できるからです。
齟齬防止対策を検討しやすいよう、構成を極力単純化した“人間の情報処理モデル”(図1)を添付します。
図の点線の内側が人間の脳内だと考えてください。図の左側から入ってくる矢印“外界からの入力”が、人が活動を行う時に感じる「視覚」・「聴覚」・「嗅覚」・「味覚」・ 「触覚」、つまり五感です。
この入力に対して、人は①から⑥の手順で必要な情報を処理し、考え、自らが行う次の動作“出力”を決定します。
①五感;人はこの五感を通して、自分の身の回りに起こる物事を感知します
②前処理;得られた情報を、脳の中の各担当部位に判 読可能な信号として送ります
③記憶;脳に送られてきた情報を、脳に蓄積された記憶と照合します
④思考;得られた情報に記憶を加味して、計算・シミュ レーション・推論などを行います
⑤判定;自分がとるべき行動を決定します
⑥動作;動作として外界にアウトプットします
このようにして、人は外界からのインプットに対し、考察し、自分のとるべき行動を判断して、動作を行うのです。しかし、図1に示す工程の処理の中で、時として本人の思わぬことが起きる場合があります。