圧縮機は容赦なく妻の細い脚に食い込む。早く解放させてあげたいが、解放は死を意味する。圧縮機は強制的に血液を心臓に押し上げるが、当人の痛みは極限を超えていた。

看護師に一般の患者はどれくらい装着するのか確認したところ、1日が限度らしい。妻はそれを約1カ月着けていく。妻の痛みの強さが常識を超越していることに涙が流れた。

「リハビリが始まるまでの辛抱だよ」と、やってもいない自分自身の言葉を恨んだ。代われるものなら代わってあげたい。私は廊下で一人泣いた。

深夜は頭蓋骨の骨折部からも発熱や痛みが出る。今を乗り切っても将来再発するかも。余計な悩みが頭をよぎり狂いそうになる。未来への恐怖で私の頭が侵される。

■2021年11月15日

昨夜は直腸と排便の痛みで苦しみ、15分ごとにベッドで爪を立て白目をむいた。この繰り返しの中で朝を迎えた。汗をぬぐい、うちわで仰ぎ声をかけることしかできない。

一昨日の段階で骨盤と左脚の痛みを制御する鎮痛剤を大量に服用したため、副作用として大腸から直腸の機能が止まり、痛みだけ増幅した。

全身に怪我がある場合は、生き残り再生するために、内側外側両面から発生する痛みをコントロールする必要があるが、極めて難しい。試しに鎮痛剤を一旦やめてみた。今度は大腸が急に動き出した。

これまで排便機能が停止していた分、根詰まりを起こし、ガスが腸をねじれさせ、苦しみもがいた。痛みにもがきエビ反り状態になるたびに、動かなかった左脚の膝が、水平のベッドから天井側に約10センチ動く。痛みによる電気信号が左脚に覚醒を指示している。

喜んでよいのか悲しんでよいのか分からない。限界点を超えていることは間違いない。妻を襲う痛みの恐怖を想像して、私の首に掛けたタオルは再び汗と涙で重くなった。

次回更新は9月2日(火)、20時の予定です。

 

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