それから一週間後、彼が私の部屋に来ることになった。約束は16時過ぎ、昼間にメールをくれた。
〈件名〉本日はよろしくお願いします
今日の予定、初めてお家に寄せていただくので、長居はせず1~2時間でおいとましますから、食事などはお気遣いなしで結構ですよ。次回からはゆっくりさせて頂きますね。
〈件名〉Re :本日はよろしくお願いします
お気遣いありがとうございます。私がお料理をするのが苦手なのをご存知だったのですね。お酒のあてとビールくらいは何時でもありますけど……。夕方は楽しみにしています。
予定の時間に駅まで迎えに行った。彼は2週間前と同じ格好で改札口で待ってくれていた。少し緊張したような表情だった。いつかどこかでこんな表情を見たことを思い出した。阪急淡路駅の東改札口だ。高校を卒業しても私には進路が決まっていなかった。
3年間遊んでばかりいたので、受験も就職も全て失敗した。アルバイトで診療所の補助をしていた私に院長先生は看護学校を勧めてくれた。
1年目は見習いをし、2年目で看護学校に行かせてもらった。准看護師の資格を取り、すぐに正看護師の学校に進学した。卒業するまで院長夫妻は私を実の娘のように可愛がってくださった。
看護学生であった4年間は彼の記憶がはっきりしない。
国家試験が終わり、大手の救急病院に就職した。自宅から遠かったので、私は病院から電車で20分程の便利な場所にアパートを借りた。現在ではマンションを借りる場合、敷金・礼金なしで簡単に借りられるが当時はアパートを借りるだけでも数十万円のお金が掛かった。それは両親から借り、月々の給料から返済していた。