結衣ちゃんは大学の時からの友人であるけど、すぐに打ち解けたので花帆みたいに中等部、高等部から一緒だった親友ともすぐ昔からの友人のように心の内面まで入っていくこともあり、すべてを理解しているつもり。でもあとの二人は私の事をどれだけ深く知っているかは確かめたことが無かったので私の独りよがりかもしれない。

この一カ月は景気回復の名の下、仕事量がめっきり増えて家に帰る時間も九時を過ぎることが多かったが昨日、結衣と久しぶりに電話でお話しできたことで今日は、朝から気分がよかった。朝、家を出かける時、母が「美代子、ちょっと」と呼び止めたので、「何?」と返事したところ側まで来て

「今日は英子の誕生日なの、あの子は忘れているかもしれないけど、形だけのささやかなお祝いをしたいから、帰りに自由が丘で美味しいケーキを買ってきてくれない、そして貴女も出来るだけ早く帰ってきて、父さんにも言っておくから」

「張本人の英子は大丈夫なの?」

「最近、帰りが早いみたいだから多分大丈夫よ、後で確認しておくわ。じゃあね、行ってらっしゃい」

美代子は通勤電車の中で、どうして母が、妹の英子の誕生祝いをすると言い出したのか理由が分からなかった。子供の頃は誕生日には必ずお祝いしたが最近は、子供たちも三十歳の大台を超えて、すでに本来の子供とは言えない年齢になっていた。が敢えて母は今日、英子のためにささやかではあるが形だけの祝いをすると言った。

何か裏でもあるのか心当たりを探ってみたが、思い当たる節が無かった。

 

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。