「今いいかしら、御主人おられるの?」

「いや、今日は遅いみたいで、子供はすでに寝かせたから大丈夫」

「じゃあ、安心したわ、もし御主人が電話口に出られると何と挨拶していいか、そんなの苦手だから」

「最近携帯電話をみんなが持っているせいか、電話で生の声を聴くことが少なくなったよ。たまに固定電話のベルが鳴り、出てみると、売り込みや保険の勧誘そして住宅のリフォーム会社の宣伝ね、我が家なんかマンションだからリフォーム会社からの電話で屋根の補修や、外装塗装の話なんか関係ないからちゃんと事前に住まいの現状を調べてから電話しろよと言いたい。ごめんね何の話だった?」

「実は、今年の八月末に花帆と自由が丘で久しぶりにお茶した時、大学の美術のサークルで一緒だった結衣ちゃんも誘ってこの次会いましょうということになったの、貴女お子さん一人でしょう、もし土曜日だったら出られる?」

「休みの日は、大体主人が家にいるから前もって伝えておけば大丈夫」

「そう、良かった。私はまだ独り身だから身軽よ、そしたら花帆の希望は来週土曜日なら時間は二人に任せると言っていたから、午後の一時はどう?」

「私は、青葉台から近いのでお昼を軽く済ませてから行く」

「それでは、自由が丘駅正面口改札一時ね、楽しみにしているわ」

美代子は受話器を置いてから、しばらく結衣の面影を思い浮かべながらあれこれと彼女の周辺について想像していた。これまで彼女が結婚して以来、過去に国立新美術館に絵画展を鑑賞しに行ったことがあるが、もう三年はご無沙汰している。でもお互い携帯のメッセージアプリで近況はやり取りしているから大体のことは分かっているつもりだ。