もう40年も前の話であるが、ある新設医大の友人を夏休みに訪ねた。新設医大は用地の確保や競合医療機関、特に医師会との関係から都心部から離れた郊外に立地されることが多かった。彼の大学も田舎にあり、若手の医師は大学近くの官舎に住んでいて皆で集ってバーベキューで歓迎してくれた。
開設して間もない大学であったため解剖や生理、薬理、病理などの基礎医学が中心で、臨床部門も全部が揃っていないため内科や外科などの主要科のみが附属病院の開設準備に当たっていた時代である。まだ卒業生もいない生まれたての大学であったが、皆仲良く建学の意気盛んで学閥の意識もなく楽しく飲み食いし談笑していた。
その時、一人の先生が凄く嬉しそうな声を上げた。何人かがその周りに集まり皆興奮している。何事かと私も覗き込むと手の中には昆虫。「どうして」と友人に訪ねると「皆、医学部卒ではなく理学部や農学部卒で昆虫や牛や馬が大好きなのだ」とのこと。悪いことではないが少し複雑であった。その方達も数年は学生と同じように医師の教授の授業を聴き、数年後には教壇に立っていた。
社会医学の人材不足も深刻である。以前、全国知事会や市長会が保健所長を医師でなくてもよいように法令改正を要望したのを覚えている方も多いと思う。定年で引退した病院医師や色々な方策で保健所長の確保に努めてはいるが、なかなか充足しないのが現 状である。
災害大国の日本では保健・衛生行政の主役である保健所の長は医師である方が望ましく、これも医学部の分化によって養成すべきかと考えている。最近はやたらと綻びの目立つ厚生労働省にもより多くの医系技官の投入が必要である。
先日、官僚の中でワークライフバランスが最悪なのが厚生労働省の職員で、国会議員の質問対応などは文書対応としてほしいと悲鳴のような要望書が若手職員から出ていることを御存知の方も多いであろう。
今、医学部の臨時定員の枠(地域枠)を廃止して元の定員まで減らそうとする動きがあるが、これらが未解決のままで減らすのは如何なものかと考えている。国際貢献を目的とする医科大学も創設されたが、何か順番が逆のように感じるのは田舎者の僻みか? 後世の識者がどう判断するか、死後に蘇って見てみたいものである。
外科系や周産期医療などの医師を増やすには入口で確保する分科化か出口で診療報酬などの待遇で誘導するか、何かの手を打たないことにはプロフェッショナルオートノミー頼みでは先に述べた如く“百年河清に俟つ”に等しい。