トラックが見えなくなると、我が家の戸締りを済ませ私たちも出発しました。その日の夜はあちこちに積まれた段ボールの隙間に座り込み、床に弁当やビールを並べた夕食でした。それも懐かしい思い出です。
翌日から、ずっと慌ただしい日が続いていきました。ご近所への挨拶、荷物の片づけ、家具の取り付けやシャワーチェアなど介護用品の手配、市役所での手続きやら、病院に紹介状を持参して受診を引き継ぐことなどがありました。
2週間ほどで一通りのことは済ませ、少し落ち着くことができました。温泉でも行こうかと話し合っていましたが、どこに行けばいいのかあてもありません。
車椅子でも大丈夫なのだろうか。ネットで調べたり直接問い合わせたりして、ようやく自宅から車で30~40分くらいのところにある『みのわ温泉ながた荘』に出かけることにしました。せっかく行くのに温泉に入れないのでは楽しみも半減ですが、幸いここには貸し切りの家族風呂がありました。付き添ってなら入浴できそうなので、挑戦することにしました。
ナトリウム炭酸水素塩泉は、つるつるすべすべで体に優しく浸み込んでいくようでした。引っ越しの疲れも緊張も一気にほぐれていきました。温泉に入るのは難しいと思っていた妻にとっては、これなら大丈夫だと分かり嬉しかったようです。
この引っ越し直後の温泉体験は、その後、信州各地の温泉地を巡る旅の始まりでした。候補地を探し下調べをすることも楽しみになりました。
茅野市の蓼科親湯温泉は、結婚前二人で一緒に旅行した思い出の地です。信州に移住してまだ地理関係がしっかり分かっていませんでしたが、 40年以上前のささやかな記憶を手繰り寄せ、もう一度訪れることにしました。
若い頃は茅野駅からバスで温泉に向かった記憶がありますが、途中の景色も旅館の様子も当時の面影は残っていません。
次回更新は3月27日(木)、7時の予定です。
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