私(西野鉄郎)は高校生に英語を教えています。N(西野作蔵)君は私の塾のOBです。上智大学の2年生で、ロシア語を専攻しています。帰省中の冬休みのある日、私たちは茶房古九谷(九谷焼美術館内)で会いました。話は弾み、3日連続で、「織田信長と古九谷」について話し合いました。
1日目 新信長論 利家と信長
『国盗り物語』(司馬遼太郎)、『織田信長』(山岡荘八)によって植え付けられたイメージはなかなか払拭できませんが、本章(1日目)はこうした織田信長像からかなりかけ離れています。小説ではなく、一種の論考のような内容を持っている本作品の導入部としては、読者の興味を引きつける内容です。
信長の経済論
(3)勝っても紙くずを乗り越える
私:作蔵君、「西郷札」を知ってるかい? 西南戦争のとき鹿児島で発行されたお札だがね。西郷隆盛が負けたので、西郷札は「負けて紙くず」となる。一方新政府は日本初肖像画入り「神功皇后札」を発行するが、新政府は戦争には勝ったが、しかし神功皇后札も「勝っても紙くず」となる。
N:え! 勝っても紙くず?
私:戦争は甘くない。経済原理は戦争を必ず罰する。アメリカの南北戦争も同じだ。負けた南も、勝った北も紙くずになり、そして北にユダヤ資本が……。
N:またユダヤ資本ですか?
私:とめどない通貨発行でインフレが起きる。そのインフレを退治するために発行通貨を使えなくする。1945年、日本は戦争に負ける。そして「負けて紙くず」が起きる。
N:信長は?
私:戦争に負けない。勝つ。勝つから新しい領土が増える。そこに「織田の永楽通宝」(贋金)を流す。新しい織田の経済圏が誕生する。贋金の「いろは」は戦争に勝ち、領土を拡大させることだ。そうでなければ贋金作りは首を絞めるだけになる。
N:そうかあ。それで信長は西へ西へと宋銭の経済圏に侵攻するのですね。
私:そうだね。それが3つめの謎(永楽通宝の流通範囲の謎)の答えだな。
N:ところで信長はそもそも贋金で何を買ったのですか?
私:贋金で金銀を買った。