間も無くして会見が行われた。この会見はテレビ中継された。記者の質問の中に「お互いを何て呼びあっていますか」との質問があった。俺は「沙優と呼んでいる」と答えた。記者は沙優にも質問した。
「沙優さんは南條氏をなんと呼んでいますか」
沙優はしばらく考えてから「貢さんと呼んでいます」と答えた。滞りなく会見は終わった。
「沙優、お疲れ様、最高だったぞ」
「なんか、全然覚えていません」
「今日は飯食って帰ろうか」
南條さんは何を考えているかわからなかった。本当の婚約者ってどういうことなんだろう。貢でいいよってどういうことだろう。
「どうかしたのか、沙優」
私は南條さんに聞いてみた。
「本当の婚約者ってどういうことですか」
「そのままの意味だけど」
「だって私はカモフラージュなんですよね」
「だから、カモフラージュから格上げってとこかな」
もう、益々分からなくなった。
「彼女さんと上手くいってますか」
南條さんはちょっと顔を歪めて「うん」とだけ答えた。喧嘩でもしたのかな。そうか、喧嘩したから彼女さんにヤキモチ妬かせようとしてるってことなの。
「南條さん、喧嘩した時はちゃんと謝らないと駄目ですよ」
「喧嘩って、俺は誰とも喧嘩はしてないよ」
「そうですか」
「それより、早く入籍しようか」
私は驚いた表情を見せた。
「なに、そんなに驚いている」
「だって、入籍するって、南條さんの奥さんになるってことですよね」