「ここが勝負よ。生きるか死ぬか、自分で選んで」

知数の両肩を掴んだ実知の腕に力が入り強く布団に押しつけた。

「知数、起きて。目を覚ますのよ」

知数を睨む実知の顔に力が入り、歯を食い縛った顔は歪み、赤くなっていく。

「起きてよ。起きて。起きて」反応がない。

死体のようにグンニャリした知数の襟元を、実知は絞め上げ、強く掴んで力いっぱいに引き起こした。

「目を覚ましてよ。そして決めて。私と一緒に死ぬのか、生きるのか」

ビシッと知数の頬が鳴った。思い余った実知の平手が打ったのだ。ビクッとした緊張が知数の体を走り、目覚めたように実知の顔を見上げた。暫くぼんやりと実知の目を覗き込んでいる。

「お願い、起きて。お願い、三鶴先生の所に一緒に行って」

ぼんやり開いた瞳に向かって、血を吐くように実知は叫んだ。

「わかったよ、起きるよ」ボソリと知数が呟いた。

俄(にわ)かに忙しくなった。時計を見て冷静に考えるとあまり時間の余裕はない。まず知数に顔を洗わせて着替えをして少しでも食べさせて歯磨きをさせて普通なら手早くできるこんなことが、丸っきりできないのがこの病気なのだ。

「人間が溶けてしまったみたいだ」

知数を見ていると実知はそう感じる。これが良くなると想像することも難しい。

知数の体はグッタリとしていて、すぐに横になって動物のように丸まってしまう。少しの間でも起きていることが難しい状態だ。

引きずり上げるようにしてベッドに座らせ、パジャマを脱がせ、ジャージに着替えさせるだけでも一仕事だ。まるで死体を引きずり、動かしているような感覚になってしまう。車に乗せるのも困難が予想される。女の力では無理だ。夫が同行してくれることになって本当に良かったと思う。

顔を洗わせるのは夫が知数を支え、実知が濡れタオルで拭(ぬぐ)い、二人がかりでやっとだ。リビングまでは夫が背負ったが、椅子に座らせるとすぐに体を捻って背もたれにもたれかかり、次には床に丸まってしまう。

この形に体を曲げないと苦しくて耐えられないのだろう。それでもまだ苦しいらしく、死んだようにグッタリとして動くことができない。