「本年も夏祭りの季節が遣って参りました。ボランティアの皆様方には一方ならぬお世話をお掛け致しますが、当地域の振興を図るため云々」で始まる商工会からの呼び出し通知を受け取り、美紀は今年も会合が開かれる商工会館の二階の会議室に出掛けた。
会合では、商工会の事務局長が出席者を前にして昨年と一言も違わぬ挨拶をしたあと、経営指導員が今年の祭りの概要に続き寄付集めの目標額と段取りを説明した。
「顔馴染みの方が集金し易いかと考え、割り振りは昨年とほとんど変えておりません。お手元に配布させていただいたリストには個々の目標金額も記載させていただいておりますが、先様の事情で昨年と同額というわけには行かないところも出てこようかと思います。
税金や自治会費などと違いこれはあくまでもご厚意による寄付でございますのでトラブルにならないようにお願い致します」
経営指導員の説明も昨年とほとんど違わなかった。説明のあと、担当別の寄付金先のリストと寄付の領収書が商工会の職員によって手際よく配られた。
白い半袖シャツにジーンズの普段着で参加した美紀は配られたリストに目を通し、昨年の集金情景を浮かべながらざっと集金日程を頭の中に描いた。頭を下げて炎天下を回る寄付集めは愉快なものでは無い。
しかし、亡くなった母の智子は飲み屋などして地元で浮き上がった存在にならないためにとの思いからこの寄付集めの役を進んで熟していた。
そんな母を美紀は小さい頃から見てきたが、それは、漁火を守り、娘を守り、自分自身を守りながら地元で生きて行くための母の知恵とも思われる行いだったような気がしていた。母から漁火を継いだとき、美紀はそれも母の教えの一つだと何の抵抗もなく受け継いだ。
この寄付集めはタイミングが難しい。梅雨明けの雷が鳴って暑さが一段と増し、町の人たちが夏祭りのことを口にし出すまでは早くから回ってもなかなか集まらないのだ。
寄付集めの対象は、商工会の役員たちが受け持つ大きなホテルや水産会社、漁協などは別口として、ボランティアたちは、小さな旅館や民宿、商店を始め医院や美容院などを受け持った。美紀はそのうちの十数口ほどを毎年受け持っている。
「それでは皆様よろしくお願いします」と事務局長と経営指導員たちが頭を下げ、会合が終わると美紀は手提げのバッグにリストと領収書を仕舞うと商工会をあとにした。