道夫は、殴られ蹴られながらも布団の上に靖夫をねじ伏せた。
手足をバタバタとして暴れる。靖夫を押さえつけ続ける義父のこんなにも恐ろしく言いようの無い絶望に満ちた顔を職場でも嫁いで来てからも美紀は一度も見たことはなかった。
暴れる靖夫を軽々とねじ伏せる腕力をどこに隠していたのだろうか。普段の道夫からは想像もできない光景だった。
道夫に十分ほど抑えつけられた靖夫は徐々に動かなくなり寝ているように大人しくなった。
その間、押さえ続けていた道夫は何があったのか美紀に訊こうともしなかった。美紀は恐ろしさに体がガタガタと震えゼイゼイと肩で息をした。美紀の喉元にはクッキリと絞められた赤い手の跡が残った。
「ここしばらくは安定していると思っていたのに」
道夫は靖夫を布団に寝かしつけるとポツリとそう言った。
「あ、安定って? どういう意味ですか?」
美紀が震える声で訊いた。
「びっくりしたやろね。息子は年に数回こんな発作を起こすんや。普段は大人し過ぎるぐらい大人しいのじゃが」