お見合い
「美紀ちゃん、一度逢うだけでも逢ってやってくれへんか。親の口から言うのもなんやけど、ちょっと奥手で引っ込み思案の性格やとは思う。それでもな、くそがつくほど真面目な子なんや」
組合長は何かと機会がある毎に美紀をそう言って口説いた。
「息子さんのことはよう知らんけど、組合長の息子さんというのならええ話やないか。向こうが言うように一度逢うだけでも逢ってみたらどうや?」
美紀が私もまだ逢ったことは無いけど勤め先の組合長から息子の嫁に請われていると打ち明けたとき、智子はそう言った。
一人娘ではあったが娘の結婚について智子に深い思い入れがあるわけではなかった。ただ、娘には収入の不安定な漁師に嫁がせるより経済的に安定した勤め人に嫁がせたいとの思いはあった。
美紀から結婚の話を聞き、実家が水商売をしていることを承知で、しかも地元の名士である組合長の息子ということもあり、智子には反対の理由は浮かばなかった。
娘がどれだけ可愛くても嫁にも遣らず一生手元に置いておくことなどできはしない。勤め出して三年あまりの二十一歳。この地方では嫁にいくには早いという歳ではない。良縁なら嫁に出す頃合いだとこの結婚話は智子を乗り気にさせもしたのだった。
美紀は、自分の結婚で一人家に残る母のことを心配した。
「何を言うとんのこの子は。あとのことは心配なんかせんでもええよ。子供いうたらお前一人しかできんだけど、お前がお嫁にいくことはずっと前から覚悟しとる。母さんには店もあるし寂しいことなんかない。早く孫でも作って顔を見せて」
智子は真顔でそう言うだけだった。
見合いは、組合長のお膳立てにより賢島のホテルの一室で行われた。美紀は当日着る服を和装にしようか洋装にしようかと迷った。
「美紀、見合いのような席では女が洋服だと甘く見られる。着物にしな」
母のそんな一言で美紀は美容院に出掛け髪をアップにして白い羽飾りを頭につけた和装にした。着物は成人式のときに母が誂えてくれた振袖で帯はリボン重ねにして少し胸高に結んだ。
智子は飲み屋の女将風情と足元を見られないように婀娜っぽさを抑えた鶯色の鮫小紋の訪問着と黒地に相良刺繍の帯を選んだ。二人は、近鉄タクシーを呼び緊張した面持ちで見合い会場のホテルに出掛けた。