享子の逆襲

トシカツが享子に送った疑惑のメールから2日後、トシカツはいつものように仕事が終わって寂しいアパートに帰る。玄関開けたら2分でビール。いつもの半額弁当をつまみにビールを呑みながら、テレビで『ネプリーグ』を見ていると、トシカツの携帯が鳴った。

出てみると警察からの電話で「今、どこにいますか?」トシカツは、何だ?と思いながら「アパートにいます」と答えるやいなや、2分とせず「ピンポーン」とアパートのチャイムが鳴る。

カギを開けると同時にドアが開けられ、1Kの小さい玄関にドカドカと男が3人詰め寄る。

何だ? 何だ? 警察手帳を見せながら

「小川俊勝さんですね?」

「はい」

「任意ですがちょっと近くの警察署まで来ていただけますか?」

と言葉使いは丁寧なのだが、「来なければどうなるかわからないぞ」的な目をしていた。

トシカツには、わけがわからない。でも危険とわかっていても自分が納得できないことや、わけがわからないことにやたらと首をつっこみたがる人っているよね。結局それで巻き添えを食ったりするのだけど。

トシカツはそういうタイプの人なのだ、根っからのラテン系、もしくはイタリア人気質だから、逆境でもどんなことでも、やたらと興味を持つし、知りたがる、楽しみたがる。今思えば、これから続く地獄道、それくらいの神経だからギリギリ生き残れたのだろうね。

警察相手に「警察手帳を初めて見た、それ本物? もう一度見せて」なんて言っている。自分のステージが、血の池から針の山にダンジョンチェンジしているというのに、トシカツは馬鹿な男だ。

警察は答えもせずに車まで誘導して、そのままトシカツは覆面パトカーに乗せられ、近くの警察署まで連れて行かれた。

警察署の2階の生活安全課の部屋に通され、密室の中で3人の男たちに囲まれ、有無も言わさず椅子に座らせられる。

「何で呼ばれたかわかるか?」と質問する。

警察の常套手段なのか、警察は連れてきた理由も言わず、本人に言わせようとする聞き方なのである。あわよくば警察も知らない情報も聞き出せるかも的な問い方だ。トシカツは「わからない」と答えた。

警察は連れてきた理由も言わず、また質問する。

「何であなたはあそこに住んでいる? 北区に家がありながら」

トシカツは「夫婦喧嘩で家を出た」と答えると、すかさず「暴力を振るったのだな?」暴力? 確かに家を出る前の日カッとなって1回手を挙げている。トシカツにしてみれば、まぁ暴力といえば暴力になるのかな? くらいにしか思っていなかった。でもやっぱり世間的には暴力です。