「何だ、こんな遅くまで」とトシカツ。語尾が強い。
享子は「仕事に間に合わないから、後にしてくれる?」とそっけない。
「ラインも既読なしだし」とトシカツ。
「うるさいなー」と享子が言う。
「何ぃ!」と怒りのトシカツは手を挙げ、大振りに享子の頭にバーンと一撃! やっちゃった、やっちまった。
トシカツは怒りもお酒も冷め、自分のしたことを一歩下がって見た。倒れて泣きじゃくる享子、異変に気付き止めようとする子供たち。一寸先は闇、地獄絵図。全てが崩れた瞬間だった。
トシカツは逃げるように2階に上がり、享子は泣きながらお風呂に入り仕事に行った。子供たちはことが収まったと判断してテレビに戻った。まるで何もなかったように時が戻った。
しかしここからが、トシカツの地獄の始まりになっていったのである。自責の念に心が包まれ、トシカツはどうしようもない決意をした。
一夜明けトシカツは仕事に向かった。淀んで生気のない顔、落ち込んだ心、うなだれた体。声も掛けたくないだろう、こんな人には。
車の中にはいつもと違う荷物が乗っていた。とりあえずパンツとTシャツと靴下とジーパン。もう家には帰れない。それ以外は考えられなかった、家族に合わせる顔がない。頭の中は真っ白のまま仕事に向かった。