第5章 相続、再び

前回と同様、姉と合流して3人で第1調停室に入室した。相手側の弁護士はすでに座って待っており、私達を確認すると眼鏡のふちを1回触ってから深呼吸をして黙っていた。数秒後、調停委員の1人が話し始めた。

「今から2回目の遺産相続調停を開始します。前回、江藤さん側および薬師さん側から提出してもらった書類等および主張の内容を厳正に精査した結果、江藤金子さんがすでに終了された光夫さんからの全遺産の相続については、妻の金子さんからのやり直しの承諾を確認できた場合のみ、双方を交えて遺産相続の分割協議の話し合いを行うことになりました」

調停委員の話を聞いて、すぐに姉が主張し始めた。

「おかしいじゃありませんか。薬師雄二さんには、すでに一方的な不利益が発生しているのですよ。委員の後ろにあるホワイトボードに描かれている家系図を見れば、はっきりと分かるように、江藤光夫さんが死亡した時点で生存している相続対象者は、妻の金子さんと前妻の実子の薬師雄二さんの2人です。本来なら、全遺産の2分の1を薬師雄二さんが獲得できる権利があるのを無視して、実際は妻の金子さんが全遺産を相続し一方的な利益を発生させている。そのうえ、遺産相続の分割協議の話し合いについてのやり直しの決定権が金子さん側にあり、承諾があった場合のみやり直しが認められるのは、法律と照らし合わせても納得できるものではありません」