娘の死
そんな過去を体験して現在の状況となった私達は、病院内の待合所で元夫に、もし直美が最悪の結果となった時に、連絡をするか否かを激しく言い合っている最中に、雄二の携帯電話の着信音が鳴った。
急いで発信先を確認すると、さっきまでいた集中治療室からだった。雄二が電話で話を聞き終わると、急いで私をイスから立たせようとした。
「母さん、直美姉さんの容態が急変したので、急いで病院に来てくださいとの連絡だ。早く移動しよう!」
そう言って連れていこうとするが、私は杖をつきながら歩くので身体を素早く動かせない。私は雄二に先に向かうように言ったが、無視して私の動きに合わせて一緒に向かってくれた。
やっとの思いで集中治療室に到着して、本日2回目の直美との対面で私達が見たのは、医師達が娘を必至に蘇生させようといろんな治療を行っている光景だった。
モニターが心拍数や脳波などの不規則な数字を毎秒表示しながら時間だけが経過していく、緊張した現場だった。そして、どのくらい経過したのか分からないままでいると、突然モニターの数値が全部0を表示した。
その後、何秒間かは医師達も治療をしていたが、突然やめて1人の医師が時計を確認してからこう言った。
「12時38分対象患者死亡」
私も雄二も、その声を聞いて少しずつ直美に接近しながら、顔を確認しようとした。しかし、私は目から涙があふれ出てハッキリと確認できない。
しかし、雄二が直美の傍(そば)で泣いているのは雰囲気で分かった。私が歩こうとして床に転倒しそうになったのを見て、医師が指示して直美の傍まで連れていきイスに座らせてくれた後、ベッドから離れていった。
私は、直美の顔を見るがやはり涙でよく見えない。ハンカチで何回拭いても同じだった。声を出して泣こうにも、高くなる心拍数を落ち着かせるのに必死で、声を出せない。
自分の娘が死亡した事が分かっても、自分の感情を思い通りにコントロール出来ない自分に、私は愕然とした。
その後しばらく集中治療室内にいた私達は、看護師から直美の遺体をどこに移動させる予定なのかを聞かれたので、こっちで指定した葬儀屋に依頼して、雄二の自宅に運んでもらう事を伝えた後に、集中治療室から退出して看護師達と別れた。
そして、先ほどまでいた待合所に戻り、私の携帯電話に登録している私の姉と葬儀社の電話番号を見せて、雄二に直美の死亡の連絡と遺体運搬の手配をしてもらった。
次に、私が入信している宗派の僧侶に、直美の通夜と本葬を執り行うので、葬儀の内容などの連絡をしてもらった。最後に、雄二の元父親の携帯番号に電話してほしいと依頼すると、雄二はすぐに拒否の意思表示をしてきた。
「母さん、申し訳ないけど直美姉さんも僕も元父親と認めていない男に、葬儀の参列をさせたくない。どうして僕達の気持ちが理解できないの?」