この本を手に取ったあなたは、今、マンションにお住まいで、何らかのトラブルを抱えているか、悩みごとがあるのかもしれない。マンションを購入しようと思っているが、本当に購入して大丈夫なんだろうかと不安に思っているのかもしれない。いずれにしてもマンションに何らかの興味や関心がある人だろう。

しかし、マンションの居住者向けの情報は驚くほど少ない。雑誌などでは、分譲会社や地名などをもとにした人気マンションランキングを特集したり、専門書では、複雑な法体系を紐解いたりしているが、現在進行形でマンションに住む人にスポットを当てた本はあまり見かけない。

私はマンション管理業に30年以上従事している。たいていのトラブルは経験してきたと言ってもいい。修羅場も何度もくぐってきた。現在は、マンションみらい価値研究所の所長を務め、マンションで起きる出来事をあらゆる角度から分析するなどしている。

マンション管理は、居住者からアドバイスを求められる場面が多い。そのため、経験がものをいい、属人的な世界に陥りがちだ。マンションみらい価値研究所は、データの分析や事例研究を公開し、誰もがそれにアクセスできるようにすることで、マンション管理の質の向上を図ることを目的として設立した組織だ。

すでに設立から5年を迎え、ホームページ上で公開しているレポートや論文も100を超えている。それでも皆さんの悩みごとのすべてを解決することはできない。なぜなら、マンションで生じる問題を最終的に解決するには、当事者が民主的な方法によって話し合うしかないからだ。

本書は、トラブル解決指南書でも、ノウハウ本でもない。

私が30年間に出合った出来事をモデルに、なぜその問題が生じたのか、もっと奥深い人間ドラマの部分から皆さんにお伝えしようと考えたものだ。もちろん、有効な解決策があればそれも紹介している。

読者の皆さんにはいったん、日本語の「管理」の持つイメージは捨てていただきたい。マンションで起きるさまざまな出来事を心で感じていただき、本書を読み終わる頃には、民主的な「マンション管理」を実現できる方になっていただきたいと願っている。マンションに住む人こそが、マンションの未来を変えられるのである。