第3章 私が知っている私のこと
妻と出会う前
創業した祖父が自転車の荷台に大きな籠をつけて、仕入れに出かけて行った姿を思い出します。祖父は名古屋の町中まで出かけ仕入れを済ました後、必ず饅頭やチョコレートなどをお土産に買ってきてくれました。
地元の商店街には八百屋、駄菓子屋、魚屋、酒屋、お茶屋、薬屋、呉服屋などが並んでいました。年末になると、くじ引きセールもあり賑やかでした。
そういえば映画館もありました。椅子席ではなく土間に茣蓙(ござ)を敷いて映画を見ていた記憶があります。どんな映画だったのか覚えていませんが、祖母や母によく連れて行ってもらっていました。
1枚のモノクロ写真があります。1歳頃の男の子が、小さなポケットの付いているベビー服を着て、横を向いて座っています。ちょっと不満げなのか、訴えるような瞳で何かを見つめています。
その写真を裏返すと古いアルバムに糊付けしてあったのを剝がした跡があり、名前が書き込んであります。私の名前に間違いありませんが姓が違います。どうして私の手元に、この写真があるのかしっかりした記憶がありません。