私は妻に我儘なことを言うばかりで自分勝手なことしか考えていなかったのに、妻は黙って後からついてきてくれました。イライラして早足で歩く私の後ろを、百メートル程離れてしまっても何も言わずついてきてくれた妻の姿を忘れることはできません。

手紙のやり取りは何度もありました。私が妻に手紙を出しても返事が届かない時は、自分勝手な想像がどんどん膨らんでいきました。今ならメールが瞬時に行き交い、きっと妻を困らせ煩わしい思いをさせたことでしょう。手紙は私にとって冷静さを取り戻す猶予期間を与えてくれました。

あんな時代で良かったとつくづく思います。遠距離恋愛という言葉が今も残っているのかどうか知りませんが、長く長くて、そしてたったの2年間のことでした。

もし妻が私と結婚することなくその後も教師を続けていたら、どんな先生になっていたのかと思うことがあります。そういう可能性もあったわけで、そんなことを何度も思ったこともありました。

「先生を辞めてしまって、後悔したことはなかった?」

私は、何とも情けないことを妻に尋ねたことがあります。

「辞めてもいいかなと思っていた頃だったので、特に何とも思わなかった」

妻はさりげなくかわしてくれました。あんなに教職にあこがれていたのに、そんなことは決してないでしょう。そのことを思い返すたびに答えようがないことを聞いたものだと、自分に呆れるばかりです。

妻は退職後も生徒たちと電話でよく話していました。また、手紙で相談に乗ったりすることもありました。慕われた先生だったと想像します。私には、生徒たちの大切な先生を奪ってしまったという気持ちがずっとありました。あのまま教職を続けていたらという選択もあったわけで、ふと、そんなことを考えてしまうことが度々あります。

妻として母として