破局へのカウントダウン
二〇一二年五月三日(憲法記念日)
夫と距離を置くようになってから、いっそう私は陰ながら着々と、離婚に向けて準備を進めていた。孝雄は、あんなことがあって、だいぶ懲りたかと思ったら、まったく懲りていないようで、また新しい彼女ができたようだ。
まあ、今の私にはどうでもいいことで、むしろ夫の不貞の証拠を増やせるというものだ。最近は、携帯電話のメールをチェックするだけでなく、日々の行動を記録したり、スケジュール帳の写真も撮ったりするようにしている。
さあ、明るい未来に向かって、自分自身のために頑張っていこう!
今年の春、次女の佳奈美が高校を卒業し、いろいろ話し合ったうえで、本人の希望により、大学ではなく専門学校に進学した。このゴールデンウィークは、さっそく仲良くなった友だちと、ほとんど毎日出かけるそうだ。長女の真奈美も、大学の友だちと遊ぶ予定でいっぱいとのこと。
子育てが一段落して、今日から四連休。家にいても仕方ないので、私はこの日から、とあるサービス産業で、昼間のパートとして働くことになっていた。一応、旦那にも伝えないと……と思い、午前八時半、今朝も朝帰りして、まだ寝ている夫宛にメモを残して出勤した。
その後、孝雄からこんなメールが届く。
〈家族から排除され続けてこられて、こんな結果になったのに。修復する気持ちのかけらもなく、いい気なもんですね〉
この期に及んで「修復」? 常識的に考えて、あり得ないだろう……。
(自分が被害者だという意識も相変わらずやし……)
もちろん私は何も返信しない。そのまま仕事をして、夕方四時過ぎに帰宅すると、孝雄は出かけてしまっていて、シャワーを浴びた形跡があった。翌朝七時くらいに帰ってきた孝雄が、声を荒げて言った。
「じゃあ離婚しよう! お前が仕事をするんやったら!」
(また言うたな……今度こそ本気やろうな? 離婚して困るのはどっちや思てるねん……)と、思いながらも、私が何も言わないでいると、いったん寝室に上がり、一時間くらい経ってから、またおりてきて言った。
「俺の通帳、全部出せ! カードも!」
(って……生活のやりくりをしているのは私。預けたら、その先から家計が回らなくなるやん……)
渡さないでいると、「お前は頭がおかしい!」だって。とりあえず今日も仕事に行くけど……。