見つけた一枚の便箋
二月二十六日(土)
孝雄の様子から、どうやら今日は仕事に行かないようなので、いよいよ晴香さんの件について話し合おうと決めた。しかしながら話を切り出すと、相変わらず逆ギレして関係ないことを持ち出し、悪いのは私であるかのように話をすり替えてくる。
浮気をしていると口を割らないのは、もちろん、うやむやにしておきたいからなのだろうけど……(そうはいかへん!)。
私は、自分の今の気持ちをストレートに言うことにした。
「いっそのこと、晴香さんに代わってもらって、私を自由にしてもらいたい。怒鳴られたり、舌打ちされたりするのも嫌やし……。だいたい、次に離婚だ言うたら離婚してあげるって言うたのに、あれから、なんで言わへんの?」
すると、「好きだから……」と一言。
(好きだったら、何をしても、言ってもいいの?)
結局この後、孝雄は逃げるようにして、どこかへ出かけてしまった。義母が寝ている部屋に行って、ため息をつきながら言う。
「お義母さん、孝雄さんと、ちゃんと話できひんかったわ」
「すまんなぁ、いつもこんなに、ようしてくれてるのに、わがままいっぱいに育てたばっかりに……」ここで間違っても、「いえいえ、そんな……」などと言う気持ちにはなれない。
孝雄の子どもの頃の思い出話はすでに何度か聞いていて、正直、(だからこうなるんや)と呆れ返ることがしばしばだったから……。
「なあ、お義母さん、山田の家は嫌や思う前にうちに来てたら、お義姉さんのところに行こうって思った?」
「うん、そうやなぁ。でも今は、景子ちゃんが嫌やなかったら、最期まで看てほしいと思ってる。もし、あんたが嫌やったら施設に入れてほしい。山田にはやらんといて」
孝雄に対する気持ちは、もうとっくに冷めていた。それでも、こうして、この家で暮らしながら、彼の母親を介護し続けてこられたのは、自分は孝雄の妻ではなく、家政婦なのだと思うようにしたからだ。そう思えば、辛くても仕事だと割り切ってすることができる。
でも、その家政婦としてやっていることさえ、今回、浮気のことがわかって、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだろうとばかばかしく思えてきて、それで、晴香さんに代わってもらいたいと孝雄には言ったのだったが……。
夫を見れば、あれやこれやと考えてしまうことも、ふいと夫が出かけてしまうと家の中は平和そのもので、「乗りかかった舟や。私でよければ最期まで看てあげる」と、義母に約束してしまっていた。
「ありがとう。景子ちゃんのことは、いつもちゃんと見てるで……」
義母は体調がボロボロでも、頭はしっかりした人だったので、二人きりでいる時には、お互いの愚痴(ぐち)や楽しかったことなどを話すようになっていた。また、そうやって義母に話すことにより、ほかに漏れることもなく、気持ちが楽になるのも確かだった。
しんじれる
そのきもちをたいせつに
きょうこのとき
みんながいるから
きっとしあわせ
ありがとう
おもえるきもち
たいせつに
ありがとう
かんしゃのきもち
わすれない
*
夕方になって、いまだ外出中の孝雄から、こんなお詫びのメールが届いた。