「なんだぁ、このまずそうなものは。気持ちわるっ。お前って、こんな変なもんが好きなのかよ」と、かんたくんがからかう。

(煮しめって、みんな知らないの? お母さんの煮しめ、凄く美味しいのに。煮しめを好きなわたしって変なの?)

その後、わたしは、お弁当箱のフタでみんなの目を遮るようにしてコソコソ食べた。大好きなお母さんの煮しめ。なのに、心寂しかった。

帰りの会。先生からの連絡。

「明日は振替休日でしたが、今日の運動会が中止になったので、明日も授業になります」

「えぇ~」

「給食はでませんので、お弁当を忘れずに持ってきてください」

「はぁーい……」

がっかりしているみんなをおいて、わたしはすぐに家に帰った。

家に帰るやわたしは、すぐにお母さんに言った。

「お母さん、明日のお弁当はハンバーグにして!」

「えっ、ハンバーグがいいの? 煮しめもあるけど?」

「煮しめはもういい。ハンバーグにしてよ!」と、強く念を押した。

わたしは、みんなに合わせたかった。みんなと同じものに。みんなと同じ普通のものに。

そして恐れた。自分はみんなとどこか違うんじゃないか。普通ではないんじゃないか。変わっているんじゃないか。だが、わたしが一番恐れたのは孤独になってしまうことだった。

次回更新は6月18日(火)、14時の予定です。

 

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