俳句・短歌 句集 四季 2020.08.03 句集「抱く」より三句 句集 抱く 【第1回】 松永 みよこ ―春― 身に余るミモザ抱えて人を待つ 猫の恋吾よりいくばくかは清く ―夏― 膝頭抱いて鎮まぬ青嵐 幸せを温めなおす五月かな ―秋― 千の菊抱きてあまりにも一人 りりりるり鈴虫まねてけんか終ゆ ―冬― 雪うさぎ今消えゆきし身を抱き 酉の市ちがう男の手も温し 平成の句姫、みよこの初句集を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 次回の記事へ 最新 身に余るミモザ抱えて人を待つ 猫の恋吾よりいくばくかは清く 脱ぎ捨てし過去踏みしめて花の道
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『宮本武蔵と忍びの者』 【第7回】 石崎 翔輝 くノ一は必ず女として男を籠絡する技を身につける。仲のいい娘が、老忍たちを相手に仕込まれる姿を見てきた。 いま薬華庵の小者たちは、甲賀の里の望月家との連絡に当たっていた。太一 (たいち)、十蔵 (じゅうぞう)、初音(はつね)といった十代の半ばを過ぎた歳の甲賀の忍びである。甲賀は、織田信長が本能寺で明智光秀の謀反で落命した後、豊臣秀吉に従ったが、天正十三年(一五八五)に雑賀(さいか)の太田城の水攻めの際、堤工事の不具合を口実に甲賀武士の家は改易処分された。そして秀吉は水口(みなくち)岡山に城を築き、中…