瞳子さん。

彼女のことをそう呼ぶようになったのには、はっきりしたきっかけはない。初めは、大地さん、と呼んでいた。自分より大人びているし、何よりお客でもあるということでなんとなく慇懃(いんぎん)に対応していたが、次第に親しくなるにつれて、瞳子さん、と呼ぶようになった。

それでもさん付けなのは、呼び捨てにするほど親しい間柄ではなかったせいもあるにしろ、ぼくにとってそれが一番しっくりくる彼女の呼び名だったから。

ドッチ君。

瞳子さんがぼくのことをそう呼ぶようになったきっかけは、はっきりしている。この日の配達以来、彼女はぼくをそう呼ぶことに決めたのだ。

ペンがいいかハンコがいいかと尋ねられ、ぼくは何やら分からなかったが、とりあえずペンと答え、持っているボールペンを瞳子さんに差し出した。

サインし、荷物を受け取ると、「ちょっと待ってて、喉渇いたでしょ」と言い、彼女は奥に引っ込み、まもなく缶コーヒーとリポビタンDを持ってきて、ぼくに尋ねた。「どっちにする?」

何か解せない感じであったが、「すいません、じゃあリポデで」

ぼくはリポビタンDを受け取る。蓋を開け、その場で飲んでいると、その様をまじまじと見つめつつ、彼女はまた尋ねてきた。

「あなたってさあ、宅配便屋なの? 酒屋なの? どっち?」

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