電車は、稲毛海岸、新習志野で停まったが誰も乗ってこない、次は南船橋だ。

浩は、東京駅までいつも通り行くつもりだった、が、持っていた新聞の間にブリーフケース、チェーンを挟み、南船橋駅に着くと新聞と書類を左腕に抱え、駅の階段を走るように降り、改札口を出て、先のショッピングモールの方へ急ぎ足で歩き出した。

やや俯きかげんでひたすら前を向き、目はそれとなく周りを探りながら……。

五反田のマンション前へ着いた浩は、何気なく振り返り、暗い道の先まで目を凝らした。入口に有る郵便箱を目で確認してエレベーターへ乗り込み、マンションの出入口の方をエレベーターの透明なガラス越しにじっと見つめながら上って行った。

四階に着くと、急ぎ足で歩きつつ、廊下から見えるマンションの入口へと続く道路の先の方を確認し、突き当たりに有るドアを開けて急いで中へ入った。鍵を掛け、無意識にチェーンも掛ける。

十四畳のLDKに入って、直ぐ右の部屋のベッドへ倒れ込むと未だ身体が震えている。自分のマンションまでどのようにたどり着いたのか? 何も覚えていない。

南船橋を出た筈なのに……左脇でグッと抱え、新聞に挟まれたカバンと書類を腕が固まったまま未だ強く持っているのに気付き、その場に放り出した。

唖然としたままじっとカバンを見つめた、心臓がドクドクと音を立てている。

「何て事をしたんだ!」と呟く自分の声に驚くと、「本当に! 一体何でこんなことをしたんだろう! 俺は……」と又呟いた。

思い出すと又身体がガタガタと震えてきて、涙が出てきた。ベッドに倒れ込み、天井を見ていると列車の中の情景が繰り返された。

【死んだ男のカバンの中の厚いドル紙幣に目が行った途端、無意識に身体が動き出し、頭が真っ白に成った後、今ベッドに横たわっている!】

犯罪だ! 何て事をしたんだろう! 今迄、自分があんな事をするなんて考えられなかった……魔が差したのか!

自分でも自分のした事が分からなかった、自分のしてしまった恐ろしさから逃れたい!と目をしっかりと瞑った。

【前回の記事を読む】し、死んでいる!! 電車で寝ている男性を起こそうとしたら仰天!