「赤星先輩、何言ったんですか!」
「別に。ちょっと励ましただけさ。何も心配いらないって」
疑わしい……。俺は険しい表情でじわりと詰め寄っていく。赤星先輩は俺の足が一歩進んだぶんだけ後退する。俺が前に出て、赤星先輩が後ろに下がる。それの繰り返し。いたちごっこの様相を呈しているうちに実況見分が終わった。後ずさりしながら見ていた赤星先輩が「あれ?」と首を捻った。それを見て俺も頭を傾ける。
「ちょっとよろしいですか?」
リーダーらしき鑑識係員が俺に声をかけてきた。
「息子さんの話、今聞けます? 調書を作成したいので」
その日は終日、俺は健太と共に警察の捜査協力に追われた。
後日、憎々しい若い警察官から俺の実家に連絡があった。
『指紋、息子さんのしか検出されませんでした。知らない誰かって誰なんですかね。もしかして幽霊とか。あの現場、ホラースポットなんですって?』
笑えない冗談を言った後、ブチッと通話が切れた。ホント、失礼な警察官だ。
千香子が「誰から?」と聞いてきた。妻には指紋鑑定を無理矢理に依頼したことは伝えていない。言うべきか迷ったが、俺は正直に話した。
「警察の心証悪くしてどうすんのよ! 被害者が死んだら間違いなく刑事事件になるのよ。
起訴されたら裁判になるかもしれないし、私たち圧倒的に不利だわ」