「老女が死んだら軽微じゃないですよ。それに健太はまだ犯人と決まっていません。はねた証拠、あるんですか? 今のところは状況証拠ですよね」
「ええ。でも、通報してくれた方がいます」
「その人、目撃者ですか?」
「いいえ。ただの通報者ですが」
適当な受け答えをする警察官だな。冤罪がなくならない理由がわかったような気がする。
「ちなみに、その通報者は?」
俺が聞くと、警察官は、
「あちらにいますが」
と手のひらで指し示した。
「ウブ平、後はオレたちに任せな」
そう言って明王が、切り込み隊長よろしく井戸端会議をしている野次馬のおばちゃんたちに突進していく。こういうときの明王は実に頼もしい。光司と幸広も続き、聞き込みをサポートする。
そんな三人を尻目に、赤星先輩は相変わらずマウンテンバイクを眺めていた。
「コレ、かっけーな。ウブ平、どこで買ってあげたの?」
「俺じゃありません。母です」
「へー。お前の母さん、センスあるな」
この状況でする会話じゃないだろう。
俺は赤星先輩を無視し、怒りの矛先を改めて警察官に向けた。
「訂正してください。犯人という言葉。証拠がないのに健太を犯人と決めつけるのはどうかと思います。知らない誰かが乗っていたかもしれないじゃないですか!」
警察官が「プッ」と噴き出す。
「これは失礼。で、知らない誰かって?」
「わかりません。だから調べてほしいんです」