捜査

5日間のGPS調べでは、いる時間はバラバラだが、享子は住町にほぼほぼ毎日通っていることがわかった。部屋を割り出したくて、一軒一軒回ってみるが、わかるわけがない。相手の名前も正体もわからない。

一軒一軒アパートの前に置いてある物の匂いとか感じなど神経を研ぎ澄ます。ブルース・リーではないが「Don‘t think,feel!」と言っても超能力者でも霊能者でも占い師でもあるまいし、見つけ出すのは無理だよ。

しかし運命とは苛酷なもので、全てを決まった方向に誘う。部屋が見つからなければ、トシカツの根気も根性もない性格だと、諦めたかもしれない。

北区の家を出る時トシカツは誓いを立てていた。「仕事は休まない」「犯罪者にはならない」の二つだ。だから次の一歩を出すのが怖いのだ。真実を知るのが怖いのだ。ドラマのストーリーみたいな、何となく頭の中で想像してしまう現実が怖い。これはドラマでもなく、現実なのが、怖い。

トシカツは、昼間はちゃんと休まず仕事をする。そうなると捜査するのは夜になる。現場100回、足しげく住町に通う。ワンルームのアパートの周りを警察犬のように嗅ぎ回る。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」じゃないが、ついにビンゴ! 見つかった!

ベランダに見覚えのある制服が干してある。享子の勤めるスーパーの制服だ。執念の捜索が実を結ぶ。部屋が割れた。タキシードを着た悪魔に「いらっしゃいませ!」と言われながら、導かれるように地獄への門がまた開いた。まるで、ゲームの1面をクリアして次のステージに入っていくようだ。

パールハーバー

とはいえ、アメリカ軍のハルノートが見つかった。そこを叩くか、やめるか、トシカツ大本営は悩んだ。脳内の参謀官を集結させ作戦会議開始。怒り、焦り、悔しさ、恐怖、不安、マイナスだらけの状況。

窮鼠猫を噛む。追い詰められたら前に出るしかない。混沌とした精神状態のままトシカツ大本営は、状況分析も相手の力量もわからず、戦う方向も定まらず、太平洋戦争の日本軍のごとく闇の中を突き進んでいった。

ついにトシカツは、パンドラの箱を開けてしまう。恨み、憎しみ、嫉妬、人間の汚い物が一気に渦のように飛び出した。ただトシカツのパンドラの箱の中には、どこを探してもひっくり返してみても、悲しいことに、最後に残っているはずの「希望(エルピス)」は、入っていなかった。