第一章
一年二組
彼が父さんなんていなくなってしまえばいいと言ったから殺した。
体の内側から溢れていくのは歓喜だった。彼の父親は酔っぱらっていた。殺しは呆気なかった。雨が祝いの紙吹雪のようにふわふわと私に降り注いでいる。雨音だけが聞こえる単調な夕方に、父親が落ちていく音はけたたましかった。
もしかしたら誰か音を聞いた人が通報しているかもしれない。雨の日だったから、ただでさえ、休日の夕方の通行人は少ないのに、今は外を歩く人がいなかった。目撃者は誰もいないはずだ。それに高架橋の手すりを覆うアイボリーの板で少なくとも私は見えなかったはずだ。父親のいない側の階段を駆け下りる。体は雨に濡れて冷えているのに、皮膚一枚奥に熱がこもっていた。
私はこみ上げる笑いをこらえるのに必死だった。この喜びをどうやって例えればいいのか。下唇を噛んで笑いを押し込める。噛み締める痛みでさえ嬉しさには敵わない。血を垂らしながら、薄暗い夕方の街を歩く。
あの時の事件は、通行人が発見して警察に通報された。警察は死体の状況や路面の状況を調べた。しかし雨は父親を突き落とした後にも降り続けていて私が現場にいた証拠は水に流れていった。
都合がよかったことに現場から私の家まで防犯カメラは設置されていない道だった。彼の父親が高架橋にいたのは全くの偶然だった。私はよく出歩いていたとはいえ、神が授けたチャンスだと思った。
警察は私の殺人を事故として処理した。私の犯行だと思ってすらいないだろう。事件はとっくに終わっていたと思っていた。彼は転校して、再会することもないと思っていたのに。彼は入学式で私を見かけて微笑んだ。私と再会できたことがこの上ない喜びであるかのような顔をしている。
そんなはずはないのだ。彼の家庭を壊したのは他でもない私なのに、彼は知らない。これからどうすればいいのか。彼にどんな顔を合わせればいいのだろうか。
視線をそらした先に窓があった。窓の隅に妖雲が覗いていた。