とりあえず先のわからない運命のことより、今日、今、15日までどう生きるか? あと17日間。トシカツは持ち物検査をする。車1台に作業服とジーパン、Tシャツ、パンツ、靴下、ついにオヤジのサバイバルが始まる。これから、辛い厳しい険しい棘の生活が待っているのだろう。
ところが何だ、世の中は何と優しくできているのか。喉が渇けば自販機、お腹が空けば何百メートルも行かずにコンビニがあり、洗濯はコインランドリーがあるし、ひとっ風呂浴びたきゃ、スーパー銭湯がある。仕事が終わってスーパー銭湯でお風呂に入って、洗い立てのパンツを履いて、スーパー銭湯の飯屋でテレビ見ながら枝豆つまんで生ビールって、天国かよ! サバイバルどころか、パパイバルじゃないか! 後は駐車場の愛車アクアで寝る。だけど欲をいえば、足を伸ばして寝たい。
時系列でいえば4月28日から5月6日の間に29日と30日、1日と2日は仕事があったが、後は休み。3日4日5日6日と4連休になる。帰る家のない人、トシカツには4連休は途方もなく長い。何もすることがない。
朝から携帯をいじりながらラインゲームのPOP2で遊ぶ。トシカツはPOP2が大好きだった。電池があれば何時間でもできる。とはいえ延々と時間がある。生産性のない不毛な時間の潰し方だ。
「そういえば、ラインゲームの中でも、あいつはツムツム派だったなぁ」
思い起こせば、付き合っている時からそうだった。トシカツと享子は、ゲームセンターの恋人占いも相性が15%だったし、星占いも二人の相性は凶だし、星座占いも相性は最悪。
というか星座占いの8月23日って、乙女座なの? 獅子座なの? 六星占術も一番悪い組み合わせだし、享子はパン派、トシカツはご飯派だし。体感も、寒がりと暑がり。食べ物も甘党と辛党。
カップヌードルの蓋にしても、トシカツは全部取って食べる派、享子は、蓋を3分の1くらい残したベロン派。生活も朝派と夜派だし、ゆで卵も固い派と半熟派。ソース派と醤油派。
マクドナルドのポテトも、享子は長いホクホク派、トシカツは短いカリカリ派と、見事に噛み合わない二人なのだが、付き合っていた時はお互い違うからこそ合うのだな、なんてトシカツは思っていたのだね。なんて思い起こしたりする。
ともあれ今は予想外な非日常の生活、なかなか対応できていない。いつまでも同じ所にもいられず、河原あたりに移動する。車1台、オヤジ一人、世間では楽しいゴールデンウィーク。
天気良好、梅雨前の爽やかな風が舞う。行く所もなく向かう所もわからず、漫画なら「ポツーン」と風景に大きな文字が出ているのだろうなぁ。語り掛けるように、草木がサワーっと風を受けて流されるようにしなっていた。
今でこそお一人様とか、ソロキャンプとか車中泊なんかが流行っているけど、トシカツにはその楽しさがわからない。というか理解できない。やっぱり、何を食べるかよりも誰と食べるかだし、どこに行くかより誰と行くかが目的なんじゃないか? が、トシカツの持論なのだろう。
簡単に分析すると、トシカツはめちゃくちゃ寂しがり屋で逆にいえば一人では何にもできない昭和の男なのである。そんな人間だからこんな状況はまるでサバンナの真ん中に捨てられ、周囲をキョロキョロしながら震えているウサギみたいだ。ウサギは、寂しいと死んじゃうんだよ。