「あっちの公園で遊ばない?」
と声をかけられ、私は目を輝かせて
「うん!」
と答え、一緒にいる友達が
「行きません!」
と断り、その後私は友達から
「誘拐されたらどうするの!?」
とこってり怒られてしまった。私は人懐こいあまり、なんでも信じて疑わない、警戒心の薄い子供だった。
そんな警戒心のない無邪気な子だったが、忘れもしない、私が小学4年生の頃の出来事だ。胸が膨らみ始めた頃だった。私は小さい頃からお父さんと一緒にお風呂に入るのが習慣だった。学校の同級生は4年にもなるとひとりで入る子が多かったが、いつ「ひとりで入る」と言い出せばいいのかわからず、ずっと一緒にお風呂に入っていた。
そんな頃、家にいると、向こうの部屋でお父さんとお母さんの話し声が聞こえた。お母さんの声で
「ねぇ! かおるの胸、膨らんできた!? どう!? ワクワクしちゃう!? 笑」
とウキウキ上機嫌の会話が聞こえてきた。…明らかに性的な話だと子供の私でもわかった。私はショックのあまり、凍りついた。もう、なにも考えることができなかった。
そして、その夜から「ひとりでお風呂に入りたい」と言い、ひとりでお風呂に入るようになったが、驚くことに、お母さんのそのショッキングな発言のことは、私はその後数十年忘れていた。
きっとそれは、身体の防衛反応なのだろうと思う。なかったことにしたかったのだろう、私はその出来事をすっかり忘れ、次に思い出したのは数十年後だった。思い出した時はなんとも言えない嫌な気持ちと、それまで忘れていたことの驚きだった。
そしてひとりでお風呂に入るようになったのはいいが、うちのお風呂場や脱衣所は暗く、小学生の私がひとりで入るにはとても怖かった。それをおばあちゃんに言うと、おばあちゃんは私がお風呂に入っている数十分、
「おばあちゃんが側にいるからね」
と言い、お風呂場のドアの外の床にずっと正座して待っていてくれた。床に数十分座るなんて寒くて痛かっただろうに、本当に本当に優しいおばあちゃん。心の底から大好きだった。