まゆ実
「知ってます? ツイン・ファクトリー?」
にやにやしながら、千春が不意に話しかけてきた。わたしは「はい?」と片眉を上げた。午後の授業が終わった直後のことである。教室を出たところに千春がいるとは思ってもいなかった。昨夜のことといい人を驚かせるのが好きなようだ。
「まゆ実、今日はどこいく?」
後ろから亜矢が聞いてきた。千春に気づき
「千春ちゃん!」
と顔をほころばせる。
「こんにちは」
千春がペコリと頭を下げた。
「以上」
「ホント面白いね、千春ちゃんって」
亜矢が噴き出す。すっかりハマッているようだ。上っ面だけの彼女の姿に。
「先いってて」
わたしは言うと、亜矢が「なんで?」と小首を傾げた。
「ちょっとね。彼女と二人きりで話したいことがあるの」
「わかった」と言って、亜矢は「後でね~」と手を振りながら歩いていく。余計な詮索をしないところも、彼女のいいところだ。大学に入ってからの三年間、付かず離れずのほどよい友人関係を続けられている。