運命の真実

説明が済み、集中治療室に上がる前には、

「会えますよ、こちらです」

と医師から言葉をかけられ案内された。

医師からかけられる言葉も聞いているようで聞いていないような状態で、体はもう夫のそばに行きたいとはやる気持ちと不安とが入り交じっていた。そこから先は夫の前にいる記憶しかない。

救急室のベッドで、がしょうした病衣姿の夫がいた。一人ぽつんと。モニター音が激しく鳴り響き、囲んでいるのは救急の医療従事者だけ。連絡があって車で向かっている道中よりはるかに言葉にならなかった。

夫を見たら、顔はパンパンに腫れ上がり人工呼吸器に繋がって、声すら出せないのは理解できた。こめかみには突き刺さっているようにボルトがあり、そのボルト周囲の鉄の帽子のような金具と紐とが繋がっていて牽引されている。ベッドのフレーム外に牽引された紐の先が伸びていて、床に向かって重りが吊るされている。わざわざ折れた首を伸ばしたまんま首がひねらないように目いっぱい首を伸ばしてある牽引。

変わり果てた彼を横目に、その日着ていた服を渡された。さっきまで着ていた服。ビニール袋に押し込まれた状態が、搬送中の緊迫感を物語っていた。

彼に

「痛い?」

と聞いた。不慮の出来事で不本意な状態でも、急性期にある彼なのに、肩を揺らして笑って見せた。夫の顔を今思い出すだけでも、メンタルが強いように見えて見栄っ張りで、肩を揺らして笑ったあの時の夫の笑顔を今思い出すだけで、涙が込み上げてくる。連れて帰りたい。胸が張り裂けそうになる。頭を牽引されていなければ本当に抱きしめたかった。

どこから笑いに変えたら微笑むメンタルになるのだろうか。手を見て握力がないことは確認できた。麻痺だ。聞いていた意識レベル通り。それでも握ってみてと夫に言った。

「私を殴ってみ……?」

と、わざと言ったような記憶もある。でも縦にも横にも首が振れないなか、殴ることを拒否した夫の顔は目に焼き付いている。

殴ってほしかった。握り返してほしかった。握り返さない、受傷したせいでグローブのように腫れあがった手は熱を出しているのか温かい……。私が強く握るときっと痛いだろう……。

擦ることしかできない悔しさ。そして一気に喪失感が押し寄せ、一旦退室するように言われた。集中治療室へ搬送準備がなされた。書き記している今でも私が一番悔しくてもどかしく誰にも当たれない辛い過去。振り返るとやはり苦しい。退室しても泣きじゃくれない。泣いたら子どもに伝染する。歯を食いしばりながらおんぶした三男を揺らしていた。