大人げない大人

日が傾きかけて、少し涼しくなってきた夏の夕方、近所を散歩中、木の低い所で鳴いている2匹のツクツクボウシを見つけました。

そっと手を近づけると

2匹のツクツクボウシは『ジッ』と鳴いて飛んでいきました。

捕獲失敗。

ツクツクボウシを逃がした私は『大人げないことをしたな』と思いながら木の側から離れました。

そして、振り向くと

そこには、2人の少年が。

『見られてしまった』

『カッコ悪い』

白い帽子と黒い帽子をかぶった2人の少年は、クスクス笑っていました。

その少年たちのお腹のあたりには虫かごが。

私は気になって2人の少年に尋ねました。

「セミが入ってるのかな?」

「ううん、クワガタだよ」

「え! クワガタ。何処で捕ったの?」

「近くだよ」

私は、まさか、こんな所でクワガタが捕れるはずはないと半信半疑でした。

「クワガタがいた場所を教えてあげるよ」

2人の少年がそう言うので、私は後を付いて行くことにしました。

クスクス笑いながら、じゃれあって歩く2人の少年になかなか追い付けない私。

もう、汗を拭きながら必死になりました。

しばらく歩くと、2人の少年は、こちらを向いて手招きを始めました。

「こっちだよ」

そう言って、右に曲がりました。

私は、2人の少年に追い付けないまま言葉通り右に曲がりました。

すると、そこには

原生林が生い茂る小さな森が。

白い帽子と黒い帽子をかぶった2人の少年は、原生林の中へ溶け込むように消えていきました。

そして、2人の少年のクスクスという笑い声も少しずつ消えていきました。

しばらくすると

小さな森にはセミの大きな鳴き声が響いていました。

「クスクスボ~イズ」

「シロイボ~シ」

「クロイボ~シ」

「ツクツクボ~シ」