【前回の記事を読む】【ショート・ショート】特急列車に間に合わない!慌てる男の背中に…
ろうそくのそばには
じめじめした7月の終わり。
私は傘を片手に取材のためサッカー場に向かっていました。
サッカー場の照明灯が近くに見えてきた頃、私の頭の上を無数の鳥が。
ピピピッと鳴く緑色の羽をした鳥の一群は、バサバサと音をたてて周りの木に降りていきました。
野生のインコ?
最初は半信半疑でしたが、じっくりと見て、インコに間違いないと確信しました。
その時でした。
冷たい風が吹いてきて雨がポツリポツリ。
あたりが暗くなって、遠くでは雷鳴が。
何かが出てきそうな怪しい空気が漂ってきました。
私は急いでサッカー場の報道受付を済ませて記者席に座りました。
すると、私の前には、ろうそくが1本。
隣の若い記者の前にも1本。
人がいる机には、全て、ろうそくが立っていました。
私は、記者席担当の係員に「ろうそくは、節電のためですか?」と尋ねました。
しかし、係員は何も言わずに行ってしまいました。
なぜ、隣の若い記者のろうそくは、とても長く明るい炎で、私のろうそくは、残り僅かで薄暗い炎なのだろうか。
「ひょっとして」と思った直後でした。
突然、強い風が吹いてきて
私のろうそくの灯りが、消・え・た。
私は、この世からオサラバしてしまったのでしょうか?
意識が薄れていく中、
サッカー場に大歓声が沸き上がりました。
ゴール前で首をグーンと伸ばして見事にヘディングシュートを決めた選手がいました。
場内アナウンスが得点者を発表しています。
「ただ今のゴールは、ろくろ首でした」