遠い夢の向こうのママ 毒親の虐待と夫のDVを越えて
通園途中の道端で、たまにおばあさんがお花を売っていた。お花が大好きだった私はたまに「幼稚園の先生にあげたい」とお父さんにねだってお花を買ってもらっていた。
ある日、いつものようにお花を買ってもらった。お父さんは小銭がなかったようで、千円札を出した。
するとおばあさんはお釣りの小銭がなかった様子で、黙って千円札を握りしめ、私が選んだお花だけくれて、並べていた残りのお花全部を持って走って逃げていった。
子供心に「悪いことしちゃったのかな」と切なくなったのを覚えている。
そして買っていったお花を先生に渡して、部屋に飾ってもらっていた。
お花を渡した時の先生の喜ぶ顔を見るのが大好きだった。幼稚園の先生もとっても綺麗で優しくて、「私の先生は綺麗で優しいんだよ!」と、どこでも自慢して回っていた。
お父さんは私を送ると市役所に出勤するのだが、私がいつも幼稚園に駆け込まず、お父さんをいつまでも名残惜しそうに見送っていたらしく、そのためお父さんはなかなかその場を離れられず、その頃はいつも遅刻ギリギリに出勤していたと大きくなってから聞いた。
お父さんをいつまでも見ていたなんて覚えてないが、なかなか馴染めなかった幼稚園に行くのが不安だったのかもしれない。
冬の寒い時は、お父さんと手を繋ぐというより、背伸びをしながらお父さんのコートのポケットに両手を入れて歩いていたのを覚えている。怖いお父さんだったけど、なんだかんだ、可愛く思ってくれてたのかな。
そんなある日、家でお母さんが、見たこともない帽子を触りながら「かおるもこの帽子を被れるようになったらいいのにねぇ」と、愛おしそうに古びた帽子を撫でていた。
「なにそれ?」
「お姉ちゃんの帽子よ、試験に通って、面接にも通って、しかもくじ引きまであるから、あんたも被れるようになるかどうかねぇ」
どうやらお母さんは、お姉ちゃんが通っていた学校をとても誇りに思っていて、私にも同じ学校に行って欲しいみたいだった。
その時の私には意味もわからなかったし、どうでもいいことだった。