部屋に戻ると、私は日記を読む。次の行動を確認し、記憶するために。
『……昼食を食べたあと、ぼくはチャリで図書館に出かけた。借りていた本を返すためと、また借りるためでもある。真夏の真昼間に、あんがい自転車はきつい。車の免許を取れば、快適だということは分かっている。速いし、涼しい。免許を取らないことがアホであるみたいに、親も言うし、大学の連中も言う。
しかしぼくは取りたくない。なにか大それたことのような気がしてならない。自転車、自分の足で行けるところが、ぼくの行動ハンイでいい。大学生にもなって行動ハンイが中学生並みだとしても。
そんな狭い中にだって、ぼくの知らない場所はまだいっぱいあるし、知っている場所であっても、日々の再確認において、ぼくになにかを与えてくれるのだ。
たとえばぼくがよく出歩く川沿いのサイクリングロード。昨日までなかったゴミが、川の端で引っ掛かっていたり、あるいはちっぽけな林の中に捨てられているイスが、再び座られるのを待っていたりするかのように、相変わらず今日も斜めに立っている。
変わっているものと変わっていないものを確認し、ぼくの心の密度は濃くなっていく。車の免許なんか取ったらあちこち遠出して、ぼくの心は薄まるばかりだ……』
今のところそれなりにまともな内容であることに安堵しつつ、母親のママチャリを拝借し、日記のごとく私は図書館に出かけることにした。借りていた本はないから、借りてくることしかできないことになる。日記と同じにはいかないが、それはしようがない。図書館の貸し出し券も持っていないから、兄の長男の和久君のを貸してもらった。