第2章 二人の出会い
義足と言えなかった思い
夏が終わり、秋の高い空を眺めながら入ったカフェ。
事故から十三年が経過していた。
アンプティサッカーをはじめて、健康的な障がい者生活を送り、仕事もしていて、社会になじんでいるかなと思っていた。店内は、コーヒーの香りで満たされ、至福のひとときを味わえるお気に入りの場所だった。
その日はたまたま、いつも俺のくつろいでいる場所で、パソコンに集中してバシバシとキーボードをたたいている一人の女性と相席になった。俺と同じ三十代くらいだろうか、肩にかかるくらいの髪を少しだけ茶色に染め、ビシっときまったスーツ姿で画面を見つめている姿からは、仕事熱心なようすが感じられた。義足の俺は、椅子に座る動作ひとつとってもぎこちない。コーヒーと一緒に置いた紙ナプキンがヒラリと女性の足下に落ちた。
「しまった……」
でも義足の俺は、簡単には拾えない。
「落ちましたよ。あ、拾いますね。足……大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
俺の足のなんとなくぎこちない動きに気がついたようで、紙ナプキンを置きながら声をかけてくれた。
「けがですか? 何かスポーツされているんですか?」
俺の足から顔をあげながらそう言った。
「はい。サッカーを……。どうしてスポーツをしているってわかったんですか?」
「日に焼けているし、スポーツ体型だなと思って……。私も昔、スキーの選手をしていたので……、スポーツ選手のけがって大変ですよね」
俺は、とっさに義足のことを隠していた。義足がわからないようにダボダボのズボンを履いていたから、きっと気づかれていないと思っていた。しかし、スポーツの話で盛り上がっていけばいくほど、義足のことを隠していることに、嘘をついているような後ろめたさを感じていた。
「LINE交換してくれませんか?」
スポーツの話で盛り上がれる女性は珍しく、俺は、嬉しくなり、連絡先交換を切り出した。
「いいですよ」
しかし、このときは連絡先を交換したものの、義足のことを言わなくてはと思うと気がひけて、連絡を取らないまま数か月が経過していった。