レース当日の天気は曇り時々晴れ、少し肌寒い朝だった。

ホステルのリビングに行くと、ハーフマラソンを走る同い年くらいの女の子2人がたまたまいたので、一緒に朝食を食べる。ゼッケンをとめる安全ピンがなくて、どうしたものかと悩んでいたら、1人の女の子が1組余分に持っていて渡してくれた。

そのまま3人でスタート地点方面に走る電車に乗り込むと、たくさんのランナーでぎゅうぎゅうになって、スタート地点に到着するときには、東京の埼京線の混雑みたいだ。

駅の構内を抜けると3万人が走るレースなだけあって、道に人が敷き詰められているみたいだった。ハーフマラソンの2人とはここが分岐点、お互いの検討を祈るハグをして、写真を撮って、バイバイの手を振った。

ウィーンマラソンもしっかりブロック分けがあるけれども、アルファベットではなく数字とスポンサー企業のロゴが目印になっていた。わたしはブロック4、WIENER STADSTICHの会社のロゴに割り振られていたので、そのロゴがあるバルーンのゲートを目指す。初めて目にする仕組みだったし、発想がイケてる。

スタート地点の盛り上がりは、以前と変わらない欧米のレースって感じで、音楽を爆音でかけて、MCがひたすらに喋り続けていた。周りのランナーも意気揚々としていて、音楽に合わせて踊っている姿すらもある。

125カ国から集まるビックレースだ、わたしと同じで2020年と2021年を泣く泣く諦めたランナーだってたくさんいるはずだ。スタート地点に向ける眼差しがどのランナーも高揚としていて、その時を今か今かと待っていた。

「ツヴァイ! アインス!」

スタートのカウントダウンはドイツ語だった。最後の数字の後に、スタートのトランペットが大きな音を立てて、歓声がそれに呼応するように反響する。

少しだけ熱くなった目頭をぎゅっと手で押しこんで、スタートラインをしっかりと臨んだ。両サイドにはたくさんの人がいて、音楽に負けない勢いで応援してくれている。スタートラインの横にあるビッグモニターはカメラに向かって手を振るランナーの姿で埋め尽くされていた。