滲んだ青

2022年4月22日。2年ぶりにパスポートに押された出国のスタンプの青いインクに涙が落ちた。インクが滲んでしまうといけないから、指でページと目頭を拭った。拭っても目頭の熱は篭ったまんまで、飛行機の窓の外側を臨むと更に熱を帯びて、朱色のワンピースに滲みを作った。久しぶりに眺める羽田の工場夜景の輝きは変わらない。以前は撮ることもなかった窓の外に、堪らずカメラのシャッターを押した。

あれだけ必要と言われていたワクチン接種証明書に一瞥もされず、あっけなく入国のスタンプを押されて、ウィーン空港の到着ロビーに降り立った。

ウィーンには以前一度来たことがある。2016年の冬、クリスマスマーケットを体験しに友人とやってきた。

そのときの記憶を引っ張りだして、空港から市内までの電車のチケットをなんとか購入した。2年ぶりの海外のせいか、なかなかスムーズにいかない。確実に身体の記憶も風化しているみたいだ。

いつもの2倍くらいの時間をかけてホステルにたどり着いて、荷物を下ろしてベッドに一瞬沈み込んだ。そいから東京から着続けていたワンピースを脱いで、シャワーを浴び、髪を乾かすと、硬水のせいか髪が軋む。

デニムにセーターを着込んで、軽く化粧をして、ロングフライトが終わったばかりなのに慌ただしく外にでる。今度は地下鉄に乗り込んで、少しずつだけど身体が記憶を取り戻したのか、さっきよりはスムーズに移動できた。4駅先について、15分ほど歩くとMARX HALLE、展示会場があった。2年かけてたどり着いた、ずっと行きたかった場所だった。