配達票に書いてある、通販の会社名と、受取人住所、アパート名・メゾン灯二〇三号、受取人氏名『轟若芽』をぼくは指し示し、「おたく、轟さんですよね?」
「まあ、そうかも」
「じゃあ、出てきてください」
「うーん、でも変なことされたら嫌だからなあ」
誰がオメエなんかに手を出すかよ! 見えない相手をブスと決め付け、条件反射的に言い返そうとして、ぐっと堪える。どうやらこの女は、ぼくとバトルしたいようだ。挑発に応じ、ぼくもまた、見たこともない馬鹿な女と闘うことを決意しなければならないのだろうか? ドアを蹴破り、泣き喚く女を部屋から引きずり出し、無理矢理ペンを持たせてサインさせるというバイオレンスアクションシーンが脳裏に浮かぶ。
まさか、宅配ごときでそんな闘争、暑苦しい。
「じゃあ、荷物、ドアの前に置いときますから。置き配でいいですよね?」
せめてもの意思表示として、冷たい声で言い放ってやった。「サイン代筆しときますから」
すると、こんなささやかな抵抗にお構いなしの挑発的な女の声。
「それって違反行為だと思う」
さすがにむっと来た。思わずあたりを見渡せば、無人の通路。怒鳴っても他人に聞かれることはなさそうだが、お客に怒鳴っていいわけがない。怒りを飲み込むと、自分の置かれている状況に茫然自失となる。