恋愛配達
ぼくは師走の配達人だ。タッタッタッと町を駆けて、ドアを開け、サインをもらえば風のように去っていく。
中身などに興味はない。そこに何が入っていようがひたすら配るだけ。自分の配達したものが、届けられた人の生活にどんな彩りを与えるかなんて思い描くこともなく、ドアを開けてドアを閉じる。心のこもっていない、「ありがとうございましたあ」とともに。
これがいつしか身についたぼくの配達流儀、というか宅配という仕事をしていれば、自然そうなるというもの。何十という配達物を素早く無駄なく配るには、いちいち未知の出会いにワクワクしたり、会う人会う人世間話などしていられないし、向こうにしたって興味があるのはぼくではなく配達物なのだから、こちらのつまらないトークで時間をつぶすつもりはないだろう。相手の顔すらまともに見ず、サインをもらったらさっさと出ていく。会っているのに会っていないかのように。
とはいえ時には、おっと感じる出会いはある。たとえばドアを開けたら、びっくりするくらい背の高い白人の美女が応対に出てきたりすると、平静を装いつつ、内心ちょっとどぎまぎしたり、得した気分になってみたりする。顔をまともに見られないから、サインする白く細長い指に見惚れたりして。しかしこんなことは稀であるし、一瞬で終了するお楽しみにすぎない。その後はまた家々を巡り、配達物とサインのやりとりという、無味無感動な作業が繰り返されることになる。
それでもやはり、ぼくはこう思うのだ。
ドアの向こうには、出会いがある。
そこで暮らす人、働く人たちとの。無数のそれを開けることによって忘れてしまいがちだが、ドアはいつだって不意な、不思議な出会いの場となる可能性を秘めている。
ぼくは何も知らずにそのドアを開け、真綿のような、魔物のような女の人と出会った。瞳子さん。後にこう呼ぶようになる、摩訶不思議な女と──。