この頃から、結里亜は自己啓発の本を何冊も読んだ。読まずにはいられなかった。
一番頼りたいはずの恭一だが、つらい気持ちを話しても解決にはならなかった。つらくてどうしようもない時、ママ友が支えてくれた。子どもが幼稚園の頃からの付き合いだ。三人のママ友は口が堅いので安心して何でも話せる。また熱心に話を聞いてくれる。
その中の一人、麻生奈緒美も家族のことで悩んでいた。同じ敷地内に二軒家を建てていて週末は一緒に食事をするという。義母の芳子は気性の荒い性格で、気に入らないことがあると大声を出したり物を投げる。顔をめがけてリモコンを投げられたこともあると言う。
また、ある日は、投げたお皿が壁に当たり、それが跳ね返ってきて奈緒美の横にいた息子の浩太の額に当たった。額は切れて血が出ていた。泣きじゃくる浩太を奈緒美は抱きしめた。あわてて救急車を呼んだ。
「転んで机の角にぶつけたんです」その時の救急隊員への芳子の説明だ。咄嗟のことばに、奈緒美は呆れてことばも出なかった。
奈緒美は、この環境で子どもを育てることに疑問を感じ、悩み抜いた末、二人の子どもを連れてアパートに出た。夫の武史は「帰って来てほしい」と何度も迎えに来たが断固として断った。奈緒美は、芳子の顔を見なくて済むことで気持ちが落ち着いていた。
結里亜たちは、奈緒美が芳子と距離を置くことが一番良いのではないか、また、一緒にいたら物を投げられあざだらけになってしまう。この選択は決して間違っていないと思った。
そして、なによりも奈緒美の表情が前より明るくなったことがうれしかった。
四人は趣味の話や、次に行くお店の話で盛り上がっていた。唯一みんなで会えるのは参観日だった。参観に行く前に喫茶店でおしゃべりをするのが唯一の楽しみだった。
また、別々に暮らしはじめたことで結里亜は少し気持ちに余裕が出てきた。インターネットでオシャレなお店やおいしいお店を探し、次回の参観日の前に行けるよう計画を立てた。