いわゆる一学期の期間は、一年で一番早く過ぎるような気がする。子供の頃も、大人になってからも。新たな環境に順応することにエネルギーを使ったり、思いがけない出会いがあったり、結構心が忙しい。当時もそうだった。
四月に初めて安奈さんと出会い、新しく“お姉ちゃん”ができたようで嬉しくて、「BAR home」には、また週に一回は顔を出すようになっていた。同時に、それまで“お姉さん”という存在だった朋子先生とは職場以外でほとんど会わなくなった。安奈さんとはだいぶ仲良くなっていたけれど、あくまでも店員と客という立ち位置。
八月の夏季休暇直前に思いきって食事に誘ったら、思いのほか簡単に承諾してくれた。憧れのお姉さんができたのは朋子先生以来で、自分でも浮足立っているのが分かった。そういう存在ができるといつも、彼氏やほかの友達のことがおざなりになって、一途になってしまう。
デートの前日から着るものは決めておいた。普段はジーパンにTシャツみたいな恰好しかしないから、目につくところにあるのはラフな洋服ばかり。クローゼットの奥に眠る数少ないワンピースを着てみた。姿見に映った自分の姿が恥ずかしくてすぐ脱ぎ、カビでも生えてやしないかと念入りに匂いを嗅いで、一応、大丈夫なことを確かめておいた。
当日は昼間から快晴で、待ち合わせの夕方になっても汗ばむ陽気だった。彼女が予約してくれた海沿いの創作料理屋へタクシーで向かう。冷房の効いた車内から出ると、少しぬるい潮風の匂い。
しばらくして現れた安奈さんに、一瞬で目を奪われた。くるぶしまである緑色のノースリーブのワンピースに白のニットカーディガンを羽織っている。笑顔で手を振りながら歩く彼女は女性雑誌の表紙に載っていそうな出で立ちで、腰あたりまである黒髪のロングヘアもまた、美しさを引き立てていた。