【前回の記事を読む】白ではなく…「真っ黒のまな板」「黒い包丁」が売っている理由
耳の不自由なFさんをお招きして
ここで、Fさんは、
「ああ、そうだ! 耳が不自由な事を示す『耳マークバッジ』を胸に着けるのを忘れていた」
と言いました。不意な来客や家族にもわかってもらうために、家の中でもいつもバッジを着けているそうです。そして、
「次回お会いする時にアリコさんにもプレゼントしますね、お父さんに渡してあげてください」
と言いました。次にお会いした時のプレゼントの約束をするなんて、Fさんなかなかダンディです。
それからしばらくして、前回話し足りなかった事があるので、もう一度話をさせてほしいと、Fさんから申し出がありました。この回では、3人がそれぞれ違う音声文字変換アプリを使用しました。
私は「音声文字変換」というアンドロイド用のアプリ、Fさんは「声で筆談」というアプリ、アリコさんはiPhone用の「UDトーク」というアプリを使用して、ZOOMの画面で見せ合いながら会話を進めました。それぞれのアプリには、画面の見やすさが調整できるものや、終了後に文字をメールで送信できるものなど、長所と短所があります。
まずはFさんがアリコさんに質問をしました。
「今、日本に『聞こえ』で困っている人が何人ぐらいいるかご存知ですか?」
なんと全人口の約10%、約1300万人もの人が聞こえで困っていると言われていますと聞いて、2人とも驚いてしまいました。
続けてFさんは、
「本人が聞こえないと言えば、その言葉を尊重する事が大切です。この考え方は、どんな病気であれ特性であれ、その人の思いが優先される事が大切です」
と教えてくれました。
Fさんは、聞こえにくくなった時の事を思い出し、補聴器を着けた時は、自分が障害者になった事を認めたくない気持ちが強くあり、周りに気づかれないようにしたため、その事で強いストレスを抱えてしまい、心身共に壊れる前に聴覚障害をカミングアウトしたものの、結局、早期退職してしまったという話をしてくれました。
「あの時は、人との関わりに対し、自分の中で勝手にバリアを作ってしまっていたと思いますし、良くない事と今は理解できています。多分、誰かが気づいてくれて手を差し伸べてくれるという甘い考えと、受け身の気持ちがあったと思います」
と言いました。そして、退職した時にはホッとしたけれども、
「本当に一人っきりになってしまいました」
と言いました。しかし今は、自らの行動で、様々な団体や人と関わりを持ち、お世話になりながら多くの人と会話をするようになり、それぞれの思いを聞いたり、聞いてもらったりする事で、自分に自信を取り戻す事ができているそうです。
これからは自分の体験を周りの人に伝えながら、互いにどうして行くのが良いのかを見つけ、それを社会に広めていくそうです。これこそ、当事者が社会で果たす役割だと思っていると、Fさんは言いました。2週にわたって登場したFさんは、
「伝えたい事をきちんと伝えられてよかった、ありがとう」と安堵されました。