それでいて帰りは、最寄り駅まで迎えにきてほしいと電話をしてきたので行くと、駅前のロータリーで九十度以上も頭を下げ、
「すみません、ありがとうございます」
と言って、車に乗り込む。そこを通る人たちが、『なんなの、この人』という顔で通り過ぎていく。すごく恥ずかしいし、腹が立つ。
(もっと普通にできない?)このところ、いっそう何を考えているのか理解できないことが増えてきた。
三月六日(日)
昨夜十一時頃、玄関のドアが、ガタガタとものすごい音を立てて開けられようとしているので、急いで玄関に行くと、ドアの向こう側から舌打ちする音が聞こえた。
(旦那だ……)
私に迎えにくるように連絡しないで、めずらしくタクシーで帰ってきたようだが……
(鍵を失くしちゃったのかな)……
などと思いながら慌(あわ)てて鍵を開けると、孝雄は入ってくるなり、玄関にカバンを投げ捨てて靴を脱いで、またカバンを拾って台所へ直行。
カップ麵をカバンから取り出し、フタを開けてポットのお湯を入れると、それを持って二階に上がり、部屋のドアを思い切り
"バン!"
――家が揺れるほど大きな音がした。食事は外ですると宣言して一週間。(そろそろ、あかんみたいやなぁ……)と、いうことで、今日は朝からゆっくりしていて、出かけないようなので、夫の分もお昼御飯をつくることにした。――が、
「御飯できたけど」
と二階に声をかけても、なかなかおりてこない。
仕方なく娘たちと先に食べ、空いたお皿を片付けていると、ようやく姿を現した。だが、食事の済んだ娘たちがテレビを観ているのを見ると、また二階に戻ってしまった。
娘たちが気づいて、
「私たち、部屋に行こうか?」
と、子どもにまで気を遣わせる始末。そして娘たちがいなくなってから、ふたたび声をかけると、今度はすぐにおりてきて、つけていたテレビを消し、一点を見つめながら無言で黙々と食事を済ませると、またわけのわからないことを怒鳴り始めた。
「俺は犬か! 俺はゴミか!」
そして最後に、
「もう御飯はいらない!」
と……。