昨日は頭が冴えていたが、今朝、術後初めての食事をすると調子が悪くなってきた。食事といっても赤ちゃんが食べる離乳食のような物だった。食べることについては一からやり直しだと思った。

考えてみれば、胃の三分の二はなく、今までとは違ったところで吻合しているのだから残った胃としては、食べ物が入ってきたらどうしたらいいのか悩んでいるのだろう。体の不調は心の不調に繋がる。がんを宣告されている今の私は特にそうだ。気持ちが悪くなるとこのまま死んでしまうのではないかと思えてくる。

気持ちの悪さが少し治まった私は、引き出しの中から新聞紙を取り出した。その新聞は今から二週間前、ちょうど胃の全摘手術を決意した日の物だった。

そこには、ある俳優の方が『逆境に負けず、強く生きる』というタイトルでがんとの闘いを記した記事が載っていた。その方は三度もがんになったが、その都度挫けずにがんに立ち向かっていき、今でも好きなスポーツをしながら元気に生きていることが書かれていた。

まるで自分のために書いてくれたと思い、その方と地元の新聞社に感謝の気持ちで一杯になった。その日以来この新聞記事は私の精神安定剤になっていた。

「病は気から」という言葉がある。ある総理大臣が原爆病院を訪れ、その入院患者にこの言葉を使い物議を醸し出し、私にも印象が残ったが、自分が病気で入院してみると、時の総理大臣が言おうとしたであろうことが分かる。確かに病は気からなのである。

今ではそのことが科学的にも証明されている。病気になるかならないかは免疫細胞が病原菌をやっつけるかどうかが分かれ目になるそうだが、この免疫細胞は精神的に安定していると活発に働き、暗く沈んでいると働きが悪いことが実験の結果分かったそうである。

人間の体は実によくできていると思う。心の有りようでとっても小さな細胞の働きまで変わってしまうのだから。俳優の方も書いていたのだが、心の健康は本当に大切で人生を変えてしまう。

学校で子どもたちを見ていても分かる。能力的には優れていても心が健康的でない子は伸びていかない。能力的には低くても、前向きに考えられる子はどんどん伸びていく。病気になり、悪いことばかり考えているとどんどん悪くなっていくように感じた。今日からは少し位体調が悪くなっても、いいことを考えようと思った。

そうだ。今日調子が悪くなったのだって三分の一残った胃が、初めて入ってきた食べ物に驚きながらも、消化活動をし、それなりに貯めておいて、十二指腸に送ったのかもしれない。小腸も久しぶりの消化吸収で上手く働かなかったのであろう。そんなことを考えていたら心が落ち着いてきた。