第一章 応援
2日後、朝一番でテレビ局から連絡が来て、報道部の方の取材を受けた。これまでの経緯を詳しく説明し、息子は無罪であること、不当な逮捕で実名報道された憤りなど、約1時間半話した。記者の方達は冤罪事件をこれまで何度も見てきただろう。私の思いが届くことを祈る。
そして午後2時から警察署前で初めての街頭宣伝を行った。これまで選挙活動や政治活動で見かけていただけだった街頭宣伝、略して街宣。まさか自分がやることになるとは想像もしたことがなかった。テーマは「冤罪と即時釈放の訴え」だ。
哲也の高校の同級生や組合の先生達、私の友人、SNSを見て来てくださった方。
12名が集まった。スピーカーは2つ。公道からマイクで警察署に向かって訴える。
「私たちは田中哲也さんを救う会です」
「保護者の一方的な聞き取りだけで、逮捕はありえない。ただちに釈放してください。田中さんは強制わいせつ行為なんて絶対にしていない」
「田中君は、まじめに学校勤務を続け、地元でのボランティア活動で地域の人たちにも愛されている」
先生方も
「田中君ぜったいに負けるな。みんな応援している。負けるな」
と声をかけてくださった。私もマイクで息子に届けと訴える。
「哲也、聞こえますかー?お母さんだよ。逮捕されて1週間。毎日取り調べられて、孤独だけど、あんたは一人じゃないよ。こんなに応援してくれる人たちがいます。一人じゃない。だから絶対負けたらいかんよ。つらくても、信念を貫いてください。やってないものは、やってない。真実はひとつしかありません。警察の方々、きちんと捜査してください。まじめ一筋で仕事をしてきました。調べてもらえばわかります。早く釈放してください」
いつのまにか涙があふれていた。息子に聞こえていると信じて大声で叫び続けた。
哲也の同級生も一緒に声をかけてくれた。テレビ局の報道の方もカメラを回して取材してくれた。放送はいつになるかは未定だというが、哲也を救う大きなうねりが生まれるかもしれない。
「これから毎日、警察署前で午後2時から訴えをします。マイクを握らなくても応援に来てください。お願いします。たくさんいればいるほど、警察にアピールできます。また息子のSNSにも訴えの記事をアップしています。公開設定にしているので、どなたでも見ていただけます。ぜひたくさんの方々にシェアしていただきたいのです。どうかお願いします」
と、最後に挨拶をした。街宣の後、新聞社の取材も受けた。
記事が掲載され、息子を応援してくれる人がまた増えることを祈った。
テレビ局のビデオを撮影していたカメラマンさんが「この事件、なんか変ですね。僕は個人的には冤罪だと思います」と、声をかけてくれた。